登山でトレーニング〜四阿山と根子岳
長野市の南東にあり、標高は2,354m。直径約3kmのカルデラが侵蝕されて現在の複数峰となっており、その一つが、西側にある根子岳である。根子岳は、2,207mと四阿山よりも低いが、火山の中心は根子岳であり、四阿山は、あくまでその外輪山である。
会社の後輩2人を連れて行った黒姫山の山行が予想以上に盛り上がり、味をしめた我々は、その勢いもそのままに、1年前に私が登頂した経験がある四阿山に狙いを定め、黒姫山に登った翌週にチャレンジしたのであった。
四阿山には思い出がある。
中学に入って初めて校歌を歌う。
その歌詞。
「仰ぐ〜四阿山、志賀の山〜」
根子岳にも思い出がある。
我々は、多くの仲間が高校1年で原チャリ(原動機付自転車)に乗り始める。原チャリさえあれば、どこまででも行けそうな妄想に支配されていた秋。なだらかで広大な根子岳の山裾が雪でうっすらと白くなったのを見て気分が高揚した私。
「蛸野井! あそこまで行ってみようぜ!」
すると、菅平高原は11月だというのに吹雪。登山どころか、麓のゴルフ場近辺を少し歩いただけで身体全体がガチガチに冷えてしまい、命からがら駆け込んだコーヒーショップで暖をとり、ホットココアを飲んだ後、家路に就いたのであった。
市街から見えるなだらかで美しい姿とは裏腹に、グロテスクなまでに広大だった裾野は、いったい山頂まで何日かかるんだろうといった畏怖を感じさせるに十分な威容であった。
そんな思い出の山々。
登るには、四阿山から根子岳を回った方が賢明である。四阿山から根子岳に向かうカルデラ内の草原が、それはそれは、まさに絵にも書けない美しさであり、それを堪能しながらの移動が楽しめるからである。しかも標高が高い四阿山から低い根子岳へ、高いところから低いところへの移動ということで、肉体的にも楽である。
登頂はどちらか片方だけにしておくというのは、お子さん連れや早く下山する必要があるなどの特別な事情がない限り、全くお勧めしない。
おそるおそる近づき、酒や薬に酔っていないか、凶器は所持していないか、眼球の動きは正常か、などなど、注意深く近寄り、話しかける。正面から見ると、木箱の中には隙間なく整然と並べられてた本がギッシリ詰まっており、表紙が見えるように立てかけてある本も何冊かあった。
業界用語で「棚差し」と「メンチン(面陳)」である。
「すみません、これは、何ですか?」
意を決して声をかけた私に、その男は笑顔で答えてくれた。
「本屋ですよ、本屋。今、営業中です。一冊いかがですか?」
驚いた。
こんな山のてっぺんに、営業中の書店があるなんて(笑)。こんな山のてっぺんまで、これだけの本を背負って登ってくるなんて(笑)。
しかも、根子岳にちなんで今日は猫の本ばかりを取り揃えた特別セールだという(笑)。
私と会社の後輩2人は、出版社勤務の編集者という職業柄ゆえか、とりあえず危険な振る舞いはなさそうなこの男に近づき、その書棚を食い入るように眺め始めた。
書店の名前は「杣(そま)books」という。
「木樵が営む書店」という意味だそうだ。店主の本職は木樵であった。
私は、かつお節や味噌汁をご飯にかけて食べる
その時は、まさかその2年後に産經新聞長野支局長の松本さん(ややこしいw)にこの書店を紹介して新聞の特集記事にしてもらうことになるなんて夢にも思わなかった。
その時は、まさかその2年後に自分が猫を飼い始めて猫とご飯を一緒に食べることになるなんて夢にも思わなかった。
人生、どこで何がどう転んでいくのか全く予測ができない。