なぜ私は毎日走っているのか。フルマラソン・サブ4(サブフォー)への道

50歳を過ぎた普通のサラリーマンが、ある出来事をきっかけに毎日走り続けるそのモチベーションの数々。

登山でトレーニング〜雨飾山

期待値という言葉がある。
あまり高いと、実際目の当たりにした時の感動が薄くなってしまうという話。
統計学上の難しい話は置いておいて、まずは、高校同級生のM院長のSNSプロフィール写真がとてもいい感じでずっと羨ましいなと思っていた私のことから。その写真。雨飾山(あまかざりやま)の山頂標の横で北アルプスの白馬方面をスッと見据えている後ろ姿。背中で語る男、という感じがとてもいい。
山頂標に書いてあった雨飾山という山は、どうやら日本百名山らしいということで、私は登るチャンスをずっと窺ってはいたのである。
そして平成30(2018)年6月3日、私は雨飾山を目指し、晴天を祈りながらM院長プロフィールのようないい感じの写真をゲットするため、実家がある長野市内を、朝まだ明けきらない5時前に車で出発したのであった。
 
雨飾山は、その位置がビミョーなところにある。長野県の小谷村と新潟県糸魚川市の県境にある日本百名山で、標高は1,963m。妙高戸隠連山国立公園に属している。妙高山火打山といった新潟県のいわゆる頸城の山々と、北アルプス白馬の山々のちょうど中間点で、妙高方面と白馬方面からの両方からのアプローチが可能であるのだが、妙高方面からのルートは、車の通行が真夏のわずかな時期のみということで、私はいったん西の白馬村に出てから日本海方面に進んでまたそこから東に戻るような形で登山口の雨飾高原キャンプ場にやってきた。
すでにかなり山深い。秘境といった雰囲気である。このキャンプ場に来るまでも、車でかなり山奥深く入ってきた印象である。とはいえ、秘境が秘境たる所以のいかにも秘境ですといったこれといった珍かなるものはない。
ビミョーな感じの山奥であった。
そもそも雨飾山という名前。「山頂に祭壇を祭り雨乞い祈願をしたことが由来」と、ネット検索の結果もなんだかビミョーな感じである。
登り始めて1時間。まだこの時期は残雪が大きな雪渓を作っていて美しい。足を取られないように慎重に進む。初めて気がついたことだったが、雪渓の上にピンク色のラインが所々ついているのは、どうやら登山道のルートを示しているものであるらしかった。木の枝からぶら下がっているあのピンクのリボンと同じ、と覚えることにした。
そして見上げると青い空と山頂と思しき切り立った峰のコントラストが美しい。後で知ったのだが、この巨大な白い岩壁には「布団菱」という名前が付いていたようで、そういう意識で見ることができなかったのは残念だった。というか、その山肌から何か特別なものを感じることができなかったということか。それを堪能するには紅葉の季節がいいのかもしれない。
そして陸上の400mトラックの第1コーナーを曲がってバックストレートに入るような感じで、山頂に向かって尾根づたいに歩く。笹で覆われている美しい平原。そこを抜けて、程なく山頂に到着した。
事前の情報でアピール度の高かった360℃の眺望は、左から焼山、火打山(妙高、黒姫は判別できず)、高妻山北アルプス連峰から白馬三山といったパノラマであり、素晴らしかった。が、どの方向もインパクト不足といった感じは否めなかったのである。
雨飾山の標高がさほど高くないからなのか、ポジションがどこからも中間点に当たるからなのか、その辺りの理由はよくわからない。
 
兎にも角にも山頂で、記念写真を撮った。撮影は、途中から一緒だった数少ない同道の登山者にお願いをした。私も、M院長のように北アルプスの方を向き、男の背中を見せてみた。
「ありがとうございます!」
私は、お礼を言いながら、登ってきた笹平の登山道を一生懸命撮影している女性が気になっていた。何を撮っているんだろう。ライチョウでもいるんだろうか。
聞くと(これは聞かずにはいられない(笑))、そこに「雨飾りの乙女」がいるのだという。どういうことか。山頂から笹平を見下ろすと、歩いてきた登山道によって描かれた線が美しい女性の横顔に見えるのであった。
 
「雨飾りの乙女」
 
何という可憐な名前だろう。
そして、何という美しいラインだろう。見下ろすとそこには本当に美しい乙女の横顔が風に髪をなびかせるかのように浮かび上がっていたのであった。
私は心から感動した。まさに、雨飾りの乙女にハートを射抜かれてしまったのであった。
 
期待値ゼロからの感動が、これほどまでに衝撃的であるということにも打ちのめされた(笑)。別の季節に、また会いに来てみたいという衝動が湧き上がったのは言うまでもない。
 
定番のランチをした後に下山。登山口のキャンプ場から雨飾高原露天風呂まで移動し、そこからまたキャンプ場まで靴を履き替えてランニングで往復。日差しはもう夏のそれであり、汗だくになった私は、ブナ林に囲まれた風情ある源泉かけ流しの露天風呂で汗を流し、「猫の耳」と呼ばれる2つの山頂を持つ雨飾山を後にした。

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期待値は、低ければ低いほど感動が大きい。